Coriell Institute for Genomic Researchから研究用にヒトDNAを購入してみた、のログ

初めてのことで時間を浪費した感*1があるので後進のためにログをさらしておく。
まだ書きかけ、初エントリ時にはオンラインでオーダーを済ませてAssurance formをFAXした段階です。
ずいぶん間が空いたけど、一応フィニッシュ!

そもそもCoriellって何?

医薬基盤研究所サイト内にある生命科学研究年表 (1951 - 1960)によると

Lewis L. Coriell によって Institute for Medical Research が Camden, NJ に設立された(Coriell Institute for Medical Research (CIMR))。これが世界初の細胞バンク(Cell Repository)となった。Coriellは培養の基礎である無菌培養技術の確立に貢献し、培養細胞を研究資源として管理することの重要性を説いた(ATCCは既に設立されていたが培養細胞の収集を開始すのはこの後である)。

とある。すげー、世界初か。
余談だけどこの生物学研究の歴史がおもろい。こーいうのわりと好きです。


そしてCoriellは疾患遺伝子の発見を目的とした各種ヒト細胞株の提供を主な目的としており、これら細胞から分離したDNAサンプルの提供も行っている。国際HapMap計画(ja, en)のサンプルもCoriellにレポジトリされてる(pdf)。あとJ.Greg Venter博士のDNAも入手可能のようだ (もちろんすべからく研究の内容を審査されるんですが) 。さすがVenter!オレたちにできないことを平然とやって(ry
最近は個人ごとの最適化医療を意識した、わりと意欲的な試みも始めている。


今回は自分の研究成果を論文化するにあたって、実験のコントロールサンプルとして国際HapMap計画を始め、いくつかの論文で良く用いられているDNAサンプルを購入することにした。

いざ購入を決意、しかし壁は意外と高そう

Coriell Instituteから様々なDNAリソースが探せる。お目当てのサンプルもすぐに見つかった*2
しかしここからが難問。どうもまずCoriellにアカウントを作りオンラインでオーダーしないといけないっぽい。こういうのイレギュラーなのは大学の事務が毛嫌いするところw
さらにAssurance formというのがあり、いろいろと条件が書いてある。中でも45 CFR part 46について触れてある。これも調べないといけない。
さらにさらにPI*3のサインに加えて、Institutional Officialからのサインも必要らしい。
分からないことがいっぱい。Institutaional Officialって、うちだと誰なのよ?状態。

45 CFR Part 46

CFR = Code of Federal Regulations…重い。響きがすでに重い。
連邦規則集 - Wikipedia。日本語になってもやはり重い。
調べていくとさらに重い。
まず45。これは大別すると50に分かれるCFRの45番目 Public Welfare (公共福祉・厚生事業?) をカバーしている。
さらに Part 46 は 2599 (!) ある Part の46番目 Protection of human subjects をカバーしているものらしい。
ここからほとんどを辿れる。

ざーっと目を通す前に以下の資料を読んでおく方が良い*4
個人情報の保護に関する米国の観点
http://www.mc.pref.osaka.jp/ocr/ocr_hcr/registry/security/report/wolff.pdf
臨床試験をめぐる倫理的・法的諸問題の比較法的研究
http://www2.kobe-u.ac.jp/~emaruyam/medical/work/papers/monbu/99monbu1.pdf

Assurance form

Coriellサイトをブラウズしていると合計3つの書式に出会う。

  1. Assurance form
  2. Order form
  3. Statement of Research Intent form


エントリを書いてる段階では結局のところ Assurance form だけ使えば良いっぽい。
問題なのは、この書類に PI (ラボヘッド) と Institutional Official がサインする必要があるというところ。
Institutaional Official とは以下のような人らしい。

In our experience, the individual who can make such commitments is usually a senior institutional official (president, vice-president, director of institute) with responsibility for scientific and technological research and development or legal affairs. This individual is likely to be the person authorized to sign grant applications, contract proposals or material transfer agreements on behalf of the institution.

http://ccr.coriell.org/Sections/Support/Global/AFSG.aspx?PgId=210
こんな契約に学長を巻き込んでいくのはハードルが高いなぁ。。 => Directorにサインしてもらうことにした (研究所所長)。

やってみた

あとでかく

まずアカウントを作る

右上にある"my account"をクリックして"new user?"で。
Insutitutional officialとPI、両方の氏名やBilling addressなどを入力するので、予め適当に情報を埋めつつ何の情報がいるかを確認して、適当な人間に相談して進める必要がある。
ぶっちゃけここが一番ハードル高いと思われる。こういったことに理解がないInstitutional officialだと…想像したくない。今回はInstitutional officialもPIも自分のボスにしたのでマシだったが、上記の45 CFR Part 46などを説明するのに心が折れそうだった*5

アカウントがアプルーブドされたら

無事、翌日にされた。これでいよいよ注文できる (Proceed to order)。
注意することは2点。
1つはFAXを送る必要がある。
2つ目は research aim を書くフォームがある。
FAXは上に出てきたAssurance formを (856) 757-9737 へ送る。
国際電話 (FAX) なので 010+相手国番号+相手国内番号 (アメリカの国番号は1) だったはず (ログが消えてた…)。
FAXして4〜5時間経過したころ、"Until Assurance Form" を通過して、次のReview processに進んでる。
さらに3時間くらいするとOrder in Processになったメールがきた。
その後も順調に進んで、無事DNAを受け取ることが出来た。

2014年追記:
別プロジェクトで再び DNA 購入したくなった。FAXめんどうなのでサイン済みの Assurance Form をスキャンして、ccr@coriell.org へメール添付で送ってみた。これでも受け取ってくれるらしく、こっちのが個人的にはラクだった。

Thank you for submitting the MTA. It is perfectly fine to send it via email, and preferred as well. We file them electronically, so a scanned, emailed document is good. Your order has been forwarded for processing.

まとめ

あとでかくかも
周りに経験のある人間がいなかったので調べることに相当の時間がかかった、というのが正直な感想。まあとにかく頼んでみちゃえ、って進められれば良いんですけど、ボスとかが絡むとねぇ…。
あと非常に大事と思われることを一つ。
今回はゲノムのコピー数変化の実験に用いるためにコントロールしてDNAを2つほど購入しました。それぞれ違う個体から得られたものです。
テストしてみた結果、片方は本番実験に用いることができませんでした。詳細を書くと長くなるので止めますが、購入される際はいくつか候補DNAを発注するのが良いです。強くお勧めします。

*1:ちゃんとした遺伝学のラボであればボスなど経験者がいてラボ内で情報があるでしょうけど、うちには自分しかいないので

*2:今回はNA10851など幾つか購入

*3:うちだとラボの教授

*4:今回は研究用にバイオリソース化されたサンプルなので、特に簡単だったけど‥ヒトの研究はこういうところが大変で実際に現場でやられている人達には頭があがらない

*5:遺伝学を知らないラボでこういったことをするのはホントそれなりに覚悟がいる